芸術の森野外ステージを舞台に、さまざまなアーティストや飲食店が集う夏フェス「OTO TO TABI presents『しゃけ音楽会2023』」。ステージを終えて間もなく取材に応じてくれた成山さんは、その歌声通りの穏やかで優しい雰囲気を持つ人物だ。「バイトなら100回以上落ちてますよ」と無邪気に笑う姿は、どこか少年らしさをも感じさせる。
成山さんの出身は北海道最東端に位置する根室市。幼いころから人前に出るのが何よりも苦手なタイプで、小学校では国語の時間に朗読をするのが恥ずかしくて仕方がなかったという。音楽に触れるきっかけとなったのは6年生のころ、合唱コンクールで歌うことになった森山良子さんの「さとうきび畑」だ。
「先生が僕の歌声を素晴らしいと評価してくれて、この曲の『ざわわ…』以外のパートを僕一人で歌ってほしいと言うんです。『そんな恥ずかしいことはできません』と涙ながらに訴えたんですが、先生は『どうしても』『大丈夫だ』と聞いてくれなくて(笑)。練習の場でもクラスメイトの前で泣いてばかりで、子どもながらに苦労したのを覚えています」
いよいよ迎えた当日は緊張を振り切り、なんとか最後まで歌いきったという成山さん。今にも泣き出しそうな目を上げると、その歌声に感激した父母や生徒が一斉に立ち上がり、会場に割れんばかりの拍手が鳴り響いたという。
「自分が人を感動させられたと初めて思った瞬間です。僕自身も全身に鳥肌が立つほどの感動を覚えましたね。まさに『ざわわ』と(笑)」